“落日”の向こうに見える未来とは!?
※私の個人的な評価です。
あらすじ・内容
【第162回直木三十五賞候補作品】新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。
『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に知らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。
笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。
この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。
”真実”とは、”救い”とは、そして、”表現する”ということは。
絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。
wowowで『落日』1話を見て待ちきれずに、本を読んでしまいました。
千尋と香、2人の語り手を主軸に物語は進んで行きます。
『笹塚町一家殺害事件』の事件について、当時を知っている人から話を聞いていくと、香が想像していた内容とはかけ離れた内容だったり、千尋の知らなかったことが次々と明らかになっていきます。
同じ事件についても、人によって受け取り方や見方は様々で真実とは何なんだろうと考えさせられます。
個人的に気になったところ
千尋の姉が自転車で信号無視をして、車で轢かれて亡くなってしまった後に、加害者が奥さんと赤ん坊を連れて、弁護士も一緒に謝りに来た場面です。
沈黙を破ったのは母だった。
『落日』より抜粋
ーわざわざお見舞いに来てくださって、ありがとうございます。
ーおかげさまでケガも回復し、無事、留学先のパリに送り出すことができました。
ー娘は幼い頃から、ピアノを習っていまして、パリ留学は夢の一つでした。そういうことですので、もうお引き取りください。
今すぐに殴りかかりたいほど憎い加害者に何もできない。加害者が罰を受けたとしても姉は帰って来ないけど、法律ですら裁いてもらえなかったら何も報われない。
そんな時は他者から見たら頭がおかしくなったと思われるような対応しかできない、被害者家族の縮図のようだなと思いました。
母や父の対応に一瞬戸惑った千尋でしたが、千尋もまた同じように現実から目を背けて生きてきたんだなと思います。
赤ちゃんが突然、火がついたように泣き出した。若い夫婦は困った様子でそれをあやしながら、その場を去っていった。だけど最後に見えた横顔にはホッとした気配が感じられた。
『落日』より抜粋
私は当時の千尋と同じように加害者は赤ちゃんを連れて来てずるい。と思ってしまったけど、現在の千尋は本当にそうだろうか?と疑問を持っています。
心の底から謝りたい。そして、許されるなら、新しい人生を送りたい。そう思っていたからこそ、妻も子どもも連れて来たのではないだろうか。二人に危害を加えられるかもしれないというリスクを承知で、それでも、この三人で生きていくことを許してくださいと伝えるために。
『落日』より抜粋
被害者家族でありながら、このようなところまで考えが及ぶのは単純にすごいと思うし、気が進まない中で事件について調べてきて、千尋の心境に変化もあったのだと思います。
“救い”とは?
物語の途中で千尋が『知るということが必ずしも救いになるとは限らない』と話しています。
知らなくて良いこと。という事も世の中にはもちろんあると思います。
落日で起きた事件については、人によって見解がバラバラで、真実は1つでは無いのだなと気付かされます。
知ることによって、同じ物事を違う角度から見ることができるようになり、そうすると自分の中で今までと違う答えが出せるようになるのではないかと思います。
違う答えが出せたら、今度は違う生き方ができるかも知れません。それが”救い”なのではないかなと思います。
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